西行花伝

その分厚さ故に長年本棚に飾ってあった『西行花伝』(辻邦生)、「平泉の世界遺産」の縁で読みはじめ、年度末の行き返り電車の中で本日読了。最初は小難かしかったものの波状的に効いてきて、感動とともに読み終わった。73歳で「花の下にて春死なん」を実現した西行(1118〜1198年)だが、作者の辻氏もこの小説を書いた四年後、73歳で亡くなった。その境地は若い頃読んでも分からなかったかも。
登場人物が西行を語る言葉、そして西行の言葉は辻氏の解した西行であり、氏の理想とする生き方の形でもあった。
「仏法とは生命と言い直していい。西行はその暗い霧を晴らすことを勧める。出離を口にするのは、そのためでもあった。...我を捨てさえすれば、生命は身体の奥から賛歌のように湧き上がる。」「我を捨てて、この世の花と一つに溶けることだった。」
死期の迫る時期の境地を西行に語らせる。
「森羅万象(いきとしいけるもの)に恵みが溢れている。(中略)天地自然の歌の中に身を横たえればいい。」
  年たけて また越ゆべしと 思ひきや いのちなりけり さ夜の中山 
              (西行69歳の時、平泉を訪ねる途次にて)

西行花伝 (新潮文庫)

西行花伝 (新潮文庫)